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もったいないの日本文化 ~ 自然の素材 Ⅶ い草・シュロ

 さまざまな天然素材の中で、和室の畳などに使われるい草と、シュロについて、今回紹介します。

 

【い草】

 い草(藺草)は、標準和名はイ(藺)。これは最も短い標準和名として知られています。畳表やゴザ、帽子や枕の材料ともなり、粽(ちまき)を笹でくるむ際に、結わえる紐としても使われます。別名の燈芯草は、行灯の灯心として用いられ、この花茎の髄の燈芯として使ったことに由来し、今日でも和蝋燭の芯の素材として用いられています。

〔い草について〕
 畳の原料として用いられるい草は、1100年以上前から用いられ、Juncus(ジュンカス)属に分類され、多年草の宿根性草本ですが、Juncusとはラテン語で「結ぶ」という意味があるそうで、原産地は、インド。シルクロードを経て朝鮮半島から日本に伝わったと言われ、日本では北海道から沖縄まで全土に自生しています。

〔生産地〕
 い草の日本における主な生産地は、熊本県八代地方で、国産畳表の8~9割を生産しています。 他に石川、岡山、広島、高知、福岡、佐賀、大分県等があります。近年中国産で安価ない草が、多く輸入されています。このため日本国内のシェアは、住宅の洋化も伴い、3~4割に低下しているそうです。

〔い草の効能〕
 日本最古の医書『医心方』(984年、丹波康頼〕では、この薬草の記述があります。食物繊維が100g中63%をしめ、ウエスト減少傾向も認められ、炎症や水腫の改善、足の臭いの軽減効果もあり、抗菌作用、利尿剤としても用いられます。

 近年自然素材の見直しや健康志向の高まりによって、再びその価値に対する注目が集まっており、日本国内の産地では、さらなる品質の向上、高級化を目指しているとのことです。

**い草のリラックス効果は、フィトンやバニリンという成分の為、室内でも、森林浴のような気分が味わえるからだそうです。

 

【シュロ】

 シュロは、棕櫚、棕梠と書きます。五種類以上が属するシュロは,狭義には、ワシュロの別名で、広義にはさまざまなヤシ科の植物を意味し、常緑高木。乾湿、陰陽の土地条件を選ばず、耐火性、耐潮性を、合わせて持つ強健な樹種であり生育は遅く、管理が少ないため手間がかからないようです。

〔利用〕
 庭園の装飾樹として用いられる他、樹皮はシュロ縄として、古くから利用されており、乗り物用を、含む、椅子やベットのクッション材となります。

〔西洋絵画〕
 西洋絵画において、シュロは”勝利”や”殉教”を象徴する図像としてえがかれています。

〔家紋〕
 シュロを図案化した家紋があり、富士山本宮浅間大社の大宮司を、継承する社家の富士氏(ふじし、 ふじうじ)が使用しています。

〔用途〕
 シュロは、たわし、帚、ブラシ、ササラなどを作り花言葉は”勝利”で、「汚れを掃き清める」の意。
海水でも腐らない為、漁で使われるロープや網にして海苔の養殖に使われたり、葉、花,実は漢方薬〔高血圧、止血薬、強壮剤〕や、お茶にして飲まれます。葉や樹皮は人形や、祭りごとの装飾品にも利用されます。

★たわし健康法で、”冷え性改善”(シュロのたわしは、血行改善に効能があると言われています)や、新年の無病息災を、願ってみてはいかがでしょう。

2018年6月

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