~ 一盌からピースフルネスを ~

9. 桜

日本の桜の開花の季節は、三月、四月。アメリカのワシントンDCは、五月。
ブラジルは、七月、八月。地域や、緯度によって異なるが、日本人ほど、桜の花を愛する民族はいない。それが民族の個性なのだろうか。とりわけ咲く花より、散る花に、心を寄せる。

有名な在原業平ありわらのなりひらの和歌に、
     世の中に たえて桜の なかりせば
       春の心は、 のどけからまし
とあるが『古今和歌集』に載るこの歌は、--この世にまったく桜というものがなかったならば(咲くのを待ちこがれ散るのを惜しむなど、桜の為に気をもむこともなく)、春の人の心はどんなにかのんびりしたものであろうに--という意味である。京都の人は、この季節になると、会う人ごとの挨拶が、「どこどこの花が咲いているえ~~」、「どこどこの花が散ったえ~~」と、会話が聴こえてくる。花だよりが挨拶で、数千年の慣習となっている。そうして、花は桜の花のことである。 古の奈良時代、万葉集の時代は、花は梅の花であった。時代を経て、花は日本人の心にしみる桜花が代表となった。

三月末から四月初めには、日本全域、桜前線のニュースでもちきりである。

ブラジルのカルモ公園の“雪割り桜”

何処もかしこも、桜花で埋めつくされる。特に哀愁の満ちた場所は、千鳥ヶ淵から、靖国神社でなかろうか?日本の為に魂を捧げた英霊の靖国神社の桜は、その歴史も鑑み、ひときわ、哀しくみえる。
東京、上野の川沿いの酒宴も、日本人独特の風習で、世界でも珍しい。
山の神、サ神さがみに由来する”酒と桜の民俗”ともいえる。
桜花のうつろいの中に、栄華を誇ったものが、滅びゆく哀れの美しさは、滅びゆくものに美しさを感じる独特の日本人の感性かもしれない。

ブラジルには、沖縄桜が多いが、ヒマラヤや雪割桜、陽光もある。
ブラジルに移住した西谷南風翁の、『さくらもり』なる望郷の念を吟じた句集も出ている。
     南米に一会有情のさくらもり

2020年9月

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