~ 一盌からピースフルネスを ~

3. 蛍

 今回は日本で5月下旬から6月中旬に発生する「蛍」について、取り上げてみましょう。前回に掲載しました『枕草子』の冒頭の「春はあけぼの」の中の夏の段には、こう書かれています。〈夏は夜。月のころはさらなり、闇もなほ、ほたるの多く飛びちがひたる。また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光て行くもをかし。〉平安の時代からも蛍は、日本人の風物でした。江戸時代には、蛍売りがいました。

 蛍の一生は一週間。(注:成虫としての期間)その生存期間は食事もせず、夜露だけで過ごし、水のきれいな環境でしか生息できず、都会ではなかなか見ることが出来ません。日本では、ゲンジホタル、ヘイケホタル、ヒメホタル等43~48種あり、世界には、2000種あります。蛍が活発に発生すのは、「気温が高く、曇った日」だそうで、蛍を鑑賞するには、静かな声で話し、大声は禁止で、蛍は音に敏感だそうです。蛍は一頭いっとう、二頭にとうと数えます。

 蛍の名所は、長野県の「木島平きじまだいら」があります。その他、神奈川県湯河原の「万葉公園」、北海道雨竜郡の「ほたるの里」。東京の「椿山荘ちんざんそう」や久我山の「ほたる祭り」、静岡県の「天城のほたる祭り」、滋賀県の「天の川ほたる祭り」等色々とあります。

 蛍の字のつく言葉には、蛍石、蛍光灯、蛍光染料等あります。

 蛍にちなむ話で、「蛍の光」は、中国の官吏の車胤しゃいんが、蛍の光のもとで勉強したという故事です。又「火垂るほたるの墓」は戦火の下の悲しい話です。

 『枕草子』と同じ平安時代の古典の名著『源氏物語』の25巻「蛍」には、源氏が、几帳に蛍を放ち。弟の兵部卿宮ひょうぶのきょうのみやに、玉鬘たまかずらの容姿をみせる場面があります。

 又この時代の女流歌人和泉式部いずみしきぶは、自分から離れた夫の心を取り戻そうと貴船神社きぶねじんじゃがんをかけに行き、その道すがら、貴船川の面におびただしい蛍の光が舞うのを目にし、夫を思う自分の生霊いきすだまを見たように思い、次のような和歌を詠んでいます。

 

 物思へば沢の蛍もわが身より あくがれ出づる魂たまかとぞ見る

 

 現代では、サザンオールスターズの名曲『蛍』は、若者にも共感を得ています。

 こうした神秘的な蛍という風物に想いをよせる詩情も、日本人の特質のひとつといえるでしょう。

2019年6月